雑誌のお話しをしましょう

インターネットも検索エンジンも無い時代、雑誌の世界に君臨していたたいへん儲かるビジネスモデルがありました。婦人誌といわれるジャンルで、「主婦の友」、「婦人倶楽部」、「主婦と生活」、「婦人生活」と、表紙を取り除くと分からなくなるような雑誌が4誌もあって、それぞれが主な地域地盤をもって棲み分けていました。シーズンごとに年末は「大掃除のコツ」などといって毎年、同じ時期に同じような家事についての記事を少しずつ模様替えして提供する。編集部は前年、前々年のアーカイブを参考にすれば大した苦労なしに大部分のコンテンツを提供できるわけです。読者のほうで世代交代してくれるから同じような内容を繰り返し提供しても大丈夫なんです。テレビが発達するまでは、これら主婦向けの雑誌が家庭向け商品の広告の受け皿になっていました。

 

アメリカでは、19世紀終わりから20世紀はじめに農業主体の経済から工業化経済へと変化を遂げました。そして農業社会のコミュニティーを離脱した「孤独な群集」が発生したのです。都会で生活する労働者やホワイトカラーの核家族が増え、主婦雑誌はその専業主婦のニーズを満たすために生まれました。「レディーズ・ホーム・ジャーナル」や「グッドハウスキーピング」が世界最大の発行部数を誇る雑誌として成長したわけです。そしてこれらの主婦向け雑誌が育んだのが石けん、歯みがき、プロセスチーズなど全国ブランドのパッケージ商品であり、さらにはそれらの商品の広告を雑誌に掲載する広告代理店だったわけです。

 

いま、テレビ、新聞、雑誌、いずれもインターネットの影響を受けていますが、中でも雑誌は大変です。なにしろ経営基盤、営業基盤が弱いので、収支償わなくなるとすぐ「長らくご愛読ありがとうございました」となる。多くの新聞・雑誌がネット上にサイトを設けるのですが、それがかえって本誌の休廃刊を早めている面もあるように見受けられます。

 

「あなたはこの時間にこのバラエティー番組を見るべきです」「あなたはこの時代この情報アソートに興味がある筈です」とマスコミ側は編成・編集されたお仕着せコンテンツを提供しようとする。それが過去100年以上成功してきたのですから。消費者の側は「私はこういう情報が欲しいのです」とウェブで検索して、そのとき、その場で必要な情報、興味のある情報を自分で選ぼうとする。このせめぎあいは当分続くでしょう。そして結局は情報検索エンジンという道具を手にした消費者に分がありそうです。お仕着せが成功する分野は、テレビにおけるスポーツ実況とか、新聞・雑誌における経済分野とか、限られたジャンルなんでしょうね。

Comments are closed.