千葉のうなぎ

うなぎと言えば、まず思い浮かべるのは静岡県か愛知県しょう。ニセモノ騒ぎが出て一躍有名になった一色うなぎ。この町は、三河湾に面した矢作川河口の町です。千葉が知られざるうなぎの産地だというと、驚く方が多いのではないでしょうか。

 

しかし、成田山にお参りになった方。門前の参道に多くのうなぎを食べさせる店が美味しいにおいを放っているのを見て、「坊さんとうなぎとは妙な取り合わせだな」と思われませんでしたか。これは成田山新勝寺の生臭坊主のためにあるのではなく、参詣者のためのものですから誤解なきよう。実は成田市に隣接するすぐ東には印旛沼があり、ここは伝統的にうなぎの養殖が盛んなところなのです。成田から印旛沼にかかる橋に向かって西に伸びる国道464号線沿いにはうなぎ屋さんが点在します。その一つ「い志ばし」というのは、小屋がけのような店構えながら行列のできる店として知る人ぞ知る店です。

 

ちなみにこの橋は、佐倉宗吾が藩主の苛斂誅求を時の将軍に直訴するために江戸に向かったとき、ご禁制を破って宗吾を渡し舟で送り、処刑された船頭甚兵衛がとったルートに架かっていると思われます。印旛沼のまわり一帯は、きれいな湧き水の出る土地です。もともとはその湧き水が集まって印旛沼ができたのでしょう。戦後住宅地が開発されるにつれ、生活排水がたれ流されて、我が国でもっとも水質の悪い湖沼として名声を馳せることになりました。

 

千葉県のうなぎブランドとしてもう一つ著名なのは「坂東太郎」です。そう言うからには利根川で獲れる天然うなぎかと思いきや、これは利根川水系で養殖されるうなぎのことです。量的に有意義なものではなく、利根川沿いのうなぎ屋さんでもお目にかかる(お口にかかる?)ことはめったにありません。希少価値をねらっているのか、いかにも天然っぽいネーミングで、利根川から離れたところで珍重されているようです。

 

いずれにしても、千葉で食べるうなぎで共通して言えることは、調理方法の素朴さ、素直さではないでしょうか。まったく蒸さないか、蒸し方が浅い。だからしっかりした歯ごたえがあります。口の中でとろけるような江戸風のうなぎを期待すると裏切られますが、いかにも魚を食べた、という実感が得られます。先に挙げた「い志ばし」と、東京は江戸川橋の「石ばし」はまったく違ったうなぎを食べさせてくれるのです。ところで千葉風うなぎを賞味したい方に、お奨めの店を一軒だけ挙げるとすると…。ウーム、香取市佐原の「うなぎ割烹山田」に軍配をあげておきましょうか。

 

Comments are closed.