甘じょっぱいパスタ

どんなものにも長所と欠点があって、良いことずくめなどということは滅多にないものです。先週、千葉の食材のおいしさについて述べましたが、今回は「良いことばかりじゃない」ということについてひとこと。週末、よく銚子に滞在していますが、あるとき、スーパーでお砂糖の特売がありました。たくさんの買い物客が10キロ単位でお砂糖を買ってゆくのを見て、「クリスマスケーキのように、この地域でお菓子を作る特別な日があるのだな」と思ったのです。そこでレジで聞いてみたのですが、なんと答えは「煮物に使うのでしょう」!

 

まさか、と思いながらよく観察してみると、いろいろ分かってきました。この地方の人は、甘い味付けが好きなのです。例えばサンマの甘辛煮。サンマが一本50円ぐらいのときに多めに買ってくる。ぶつ切りにして、生姜の千切りと、砂糖たっぷり、酒、しょうゆで骨が柔らかくなるまで煮込んで常備菜にしています。

 

これなどは地元の産物をうまく利用した、この地方独特の生活の知恵ですが、どうかと思うものもあります。銚子はお寿司屋さんの多い土地柄ですが、そこでほとんど例外なく供されるのが、名物の太巻き寿司です。プリンのように甘く、初めての人は驚かされます。つぎに、蕎麦屋さんで食べる温かい蕎麦。これが甘ったるくていけません。江戸の味に慣れたものにとって受け入れ難いものです。そばつゆに砂糖を使うのは当然なので、要はその分量の問題でしょうが、これが尋常ではないのです。さらに発見して驚いたのが、スパゲティー。和製ソースのナポリタンが甘いのはおおむね全国共通かも知れませんが、銚子ではぺペロンチーノであろうが、カルボナーラであろうが、どこで食べても例外なく甘じょっぱいのです。「ところ変われば品変わる」で、その発見は旅行の楽しみの一つでもありますが、ついに「この地方の人は甘い味付けを好む」という定理を打ち立てざるを得なくなりました。

 

戦中、戦後の一時期、一般庶民にとって砂糖は貴重品でした。日本語の語彙から消えてしまったと思われた羊羹がなんかの拍子に手に入って、みんなで、うすーく切ったやつを食べて感激したっけ。お餅のあんこが塩味から本来の甘い餡になったときも、豊かさと平和を実感したものでした。あの頃と比べると、今のなんでも有りの豊かさを、豊かと思う人はどのぐらいいるのでしょうか。それにしても、過ぎたるは猶及ばざるが如し、と思うのですが。

 

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