筆の勢い、というか、キーボードの勢いというか、東北部千葉を中心とする地方の味の好みについて、このあいだケチョンパンにこき卸したので、ウマイモンについても書かないと不公平ではないか。このような思いから、罪滅ぼしのために次に書き留めておきます。
<その一>この地方で蕎麦屋さんに入ったら、鴨なんばんを試してみることをお奨めします。千葉は昔から鴨の飛来地として知られています。おそらく利根川や鬼怒川が氾濫してあちこちに沼地を作り、絶好の鴨の餌場を提供していたのでしょう。そう言えば、天皇陛下が外国の賓客をもてなされる宮内庁の鴨場は市川市なので、そこの鴨池が河川の氾濫でできたものかどうか定かでありませんが。
さて、鴨なんばんです。温かい蕎麦が甘くていけない、と申しましたが、鴨汁は甘い目がちょうど良い塩梅となります。私は銚子市の島彦という蕎麦屋さんで、鴨なんばんを頼んで驚いきましたね。ふつう、蕎麦の上に鴨肉が三切れも乗っていれば御の字ですが、ここの鴨なんばんは、蕎麦をすすると中からつぎつぎに鴨肉が湧き出してくる。しかも、汁がそばつゆというより、正真正銘の鴨汁になっています。私はこれを最後の一滴まで飲み干して大満足となります。蕎麦屋さんでなくても、この地方にあちこちに見受けられる鴨料理屋さんで、お手軽な鴨料理として鴨なんばんの蕎麦を提供していることが多くて、これはうれしい庶民サービスと言えるでしょう。
<その二>甘くてうまいものの二番手は、やはり金目鯛の煮付けでしょうね。伊豆半島の下田港が金目鯛の水揚げ日本一などとイバっていますが、銚子の人に言わせると、こちらはウマさ日本一なんだそうで。たしかに脂の乗り、身のしまり具合は比類のないものです。これをご当地独特の甘い味付けで処理するからたまりません。東京で金目鯛の煮付けといえば、切り身なんですが、当地では腹から開いたままのB4判ぐらいのやつを大きな平鍋で身のほうを下にして煮ます。魚料理屋で食べる場合は、こいつの姿を見ないうちに他の料理をやたらに注文しないことをお奨めします。メインディッシュは一皿を二人で食べてちょうど良い、ということになりかねないからです。