10年後の広告はどうなっているか(3)

これまで2回のお話に基づいて考えると、こんな世界が広がるのではないか、と思われることを列記してみます。

 

1.   媒体の細分化が進行する、そしてその究極の姿は一人一媒体に近いものである、と言いました。一人一媒体は、媒体が無いのに近い状態で、江戸時代の口コミ社会が再現すると思ってもよいのではないでしょうか。ただし、ウェブが発達した超口コミ社会です。

 

   商品情報の入手にも、口コミが大いに関与するでしょう。あらゆる商品について、購入体験や

使用体験の情報が容易に入手できるでしょう。行ってきました、買ってみました、使ってみまし

た、作ってみました、食べてみました、などのレポートが重視され、商品購入の参考情報とさ

れます。ということは、口コミをトリガーする、フックのある新製品が求められるでしょう。また、

口コミをトリガーするような、商品についての関連情報が珍重されるでしょう。

 

商品やサービスを提供する側が自社のホームページで提供する情報も、いろいろな機能が付加されて高度化しているでしょうし、いわゆるマスコミチャンネル以外から得られる役立ち情報が広告から得られる情報を上回っているかもしれません。

 

2.   新製品発売告知など、当初の情報をプッシュ情報で、できる限りイノベーター、オピニオンリーダーに流し、後は口コミによって、商品情報が拡散してゆくのを助長する、という広告戦略が一般的になるのではないでしょうか。

 

ただし、新発売告知をはじめとして、プッシュ型情報提供が要求される場面は尽きないが、プ

ッシュ型情報を提供することが可能な媒体が、広告主の求めるオピニオンリーダー、イノベー

ター層(言うまでもなく、商品によって層がちがいます)への接触を可能にするかどうか、分か

りません。その意味では、セッツインユースの減少とともに、テレビもある特定の層にアプローチ

するためのセグメント媒体になっている可能性が強い。その傾向は、F2とかF3とか言ってマ

スメディアを自称している側が、現在、自ら作り出している、と言えなくもありません。

 

3.   知りたい情報を引き出すことが容易になるので、売る側にとっては脅威です。イメージづくりよ

りも実質的な商品性能の向上に、より多くの企業努力を傾注せざるを得なくなるでしょう。

 

高関心商品について、プッシュ情報の必要性が減少するでしょう。例えば自動車の情報は、

新発売告知を除けば、ほとんどがHPからプル情報で入手するようになるかもしれません。自

動車が多くの人にとって高関心商品であり続けるかどうかは疑問ですが、どんな商品でも、

それの購入を考えている人にとっては高関心商品たり得るのです。

 

4.   スーパーマーケットの店頭媒体など、新しい媒体が地位を確立している

 

食品、日用品など、スーパーマーケットで購入される商品は、現在のマス4媒体の衰退とともに、マーケティング手法の変更を余儀なくされるでしょう。効率的に消費者にアピールする媒体として、スーパーマーケット店頭におけるサイネージが注目されているでしょう。

 

5.   統計上、日本の広告費は減少している。

 

例えば日本最大の広告主、トヨタ自動車が年間広告予算約1000億円の3割程度を」削減する、ということが大いに話題になりました。市場が冷え切っているから広告費を削減する、という経営判断もあったでしょうが、そのほかに外部媒体を通じた広告宣伝を減らして、ホームページ等を通じた商品情報の提供をより充実させようという判断が当然あったのではないでしょうか。

 

いわゆるマス媒体の広告出稿量という意味における、日本の年間広告費は10年後には減少していると思われます。これは必ずしも広告主の情報提供ニーズが減少している、という意味ではなく、情報提供の形に変化がもたらされているということです。

 

6.   現在のような広告代理店のビジネスモデルは存続しない

 

マス媒体が縮小し、多様な形の情報提供が求められるようになっているとすれば、現在のような広告代理店のビジネスモデルは、成立しなくなっていると思われます。媒体扱いから入るコミッションを主な収益の柱にしている形態は、早急に修正しておかないと、立ち行かなくなるおそれがあります。

 

7.   広告主組織も、CIOを中心に構築しなおされる

 

広告部と広報部が企業の情報活動を仕切っている現状も、大きく変わらざるを得ないでしょう。複雑、多様化した情報環境に対応するために、企業は「チーフ・インフォメーション・オフィサー」を情報提供機能の中心となる役員として据え、その周りにIT、広告、広報の各機能部門を配置するようになるでしょう。

Comments are closed.