マスコミ文化からデジタル・クチコミ文化へ

テレビ、新聞などマスコミの地盤沈下と、それとは裏腹にデジタルおよびインターネット情報技術を使ったニューメディアの隆盛がいちじるしい。これまで社会に君臨していたマスコミ各社も独自のウェブサイトの構築などで、旧来型とニューメディアとの相乗効果を作りだそうと躍起になっているが、成功例は皆無と言って良い。どうもこれまでの動向を概観すると、世界はCGMを通じてデジタル・クチコミ文化へと驀進しているように見える。

 

このまま世の中がデジタル・クチコミ社会へと突き進んでゆくと、世界はどう変化して行くのだろうか。まず考えられるのは、国境、民族を越えた巨大クチコミ文化圏の形成である。クチコミ文化が政治的国境と関係なく、世界を分割・統合しようとしているのである。最大のクチコミ文化圏は言うまでもなく英語圏。スペイン語、アラビア語など使用人口の多い言語文化圏が、それぞれ次第に国境を越えたまとまりを見せてゆくのではなかろうか。

 

これまでは、アメリカの文化とカナダのそれとの間に融合現象はあっても、同じ英語圏であるオーストラリアやインドとの文化融合はあまり存在しなかった。それぞれの国に民族資本によるローカルなマスコミがあって、文化の独自性を守ってきたのがその一つの理由と考えられる。デジタル・クチコミ社会ではこの垣根は取り払われてしまう。インドも、恐らくは中国も英語デジタル・クチコミ文化圏に取り込まれ、人口的な要素を超えて経済発展に拍車を掛けることになるのではなかろうか。同様に経済衰退サイクルに入ったかに見えるアメリカも、カナダ、オーストラリアを始めインド、中国を含む英語圏を取り込んで、巨大文化圏のリーダーとしてもう一度経済発展のチャンスを窺うものと思われる。

 

翻って我が国はどうか。ドイツ、イタリアと並んで独立の弱小ローカル文化圏を形成し、アメリカ・インディアンやニュージーランドのマオリ族のような希少文化を形成してゆくのではなかろうか。ほとんどの人が達者な英語を使うドイツはまだ良いが、我が国の場合はかなりの困難に直面しそうである。日本語はプログラミングに向かない言語であるとばかりでなく、国境を越えたクチコミ文化を形成することが出来ず、国際化する巨大井戸端文明からも置いてきぼりを喰らいそうな予感がしてならない。

 

ところで、デジタル・クチコミ社会の別の側面を垣間見る思いがするのが最近の物価下落である。物価下落の原因としては、供給力が需要を上回っている、新しい流通形態の市場参入による価格競争の激化、公正取引に関する法整備で業界の談合的体質が維持できない、などいろいろな条件が重なっていると思われるが、一つの大きな要素として考えなければならないのが、マスコミ社会からクチコミ社会への移行である。

 

これまでの社会では、マスコミがそのコンテンツを通じて、また広告を通じてメーカー企業の欲する販売価格維持の方向に影響を及ぼしてきた。ところが最近では、消費者のデジタル・クチコミが価格決定要素として大きな力を発揮していることを無視してはなるまい。それはカカクコムなどの直接的価格比較メディアだけではない。ネット上の巨大井戸端会議の場と化したウェブサイトは、消費者側に立った廉価情報をじゃんじゃん流しつつある。自社に有利な情報操作の道具立てとして、非価格競争のツールとして、新しいメディアを使用する方法を模索してきたメーカー企業は、すっかり当てがはずれ、その活用方法に悩んでいるというのが偽らざるところであろう。

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