20世紀後半がテレビ全盛の半世紀であったことは疑う余地がありません。この間テレビ放送は、情報伝達の手段として市民の生活、政治など社会全般に大きな影響を及ぼしました。そして広告媒体としての側面からは、企業の広告活動を左右するスーパーメディアとして、力を発揮してきました。この半世紀にマーケティングに携わった人々は、この強大な広告媒体が電力と同じようにインフラとして存在する中で業務を行い、このインフラの無い世界など考えられなかったのではないでしょうか。
媒体としてのテレビの強力さは、その到達範囲が広範なことばかりでなく、見る人の視野一杯に情報を展開して注意をひきつける点で、インパクトも強い。映画館で観る映画を除いて、これだけ強力な情報媒体はテレビ以前にも無かったし、これからも当面視野に入ってきていません。
それが弱体化しつつあるのですからたいへんです。5年ごとに実施されるNHK放送文化研究所による国民生活時間調査では、2005年のデータではテレビ視聴時間の減少は、有意ではあるがさほど大きいものではありません。むしろ、新聞を読むのに費やす時間の減少傾向のほうが、より眼を引くぐらいです。しかし、テレビ視聴時間についても、2010年の調査ではより大きな変化が記録されるのではないでしょうか。2005年からこの調査でカバーされるようになったインターネットに費やす生活時間が、2010年の調査でどう変わるかも要注意ポイントです。
テレビ媒体の弱体化により、そしてネット媒体の相対的な強化によって何が起きるか。これは一概に予測し難い。とくにネット媒体は発展途上にあって、まだその広告媒体としての活用方法が定まっていないからです。しかし、高関心商品に関するかぎり、ネットの活用でうまく情報を消費者に届けることができることが実証されつつある。(自動車などがそうですが、自動車も高関心商品でなくなりつつある気配もあります。)
問題は、スーパーマーケットで販売されているグロサリーや日用品など、低関心商品の場合でしょう。これまで、テレビの前に座っている人にいきなり強力な情報ミサイルのようなもの(低関心商品についての高関心コマーシャル)を発射して、消費者に情報を注入してきたのですから、(商品情報が無理なら好感度をください、とやってきた)これからは困るでしょうね。当然、店頭での活動に多くの費用を振り向ける方向に行かざるを得ないでしょう。すでに一部の先進的なメーカーの中には、明確にその方向を示しているところがあります。
2008年のアメリカ大統領選挙は、時代が明確にテレビの時代からネットの時代に代わりつつあることを告げました。ネットの使い方は、情報媒体としての新しい多様性がまだまだ発掘され、広告的にもいろんな人がいろんな実験をして、だんだんと形が定まってゆくのでしょう。多くはこれからのお楽しみ、というところでしょうね。