車の両輪

大量生産、大量消費の戦後社会を、テレビとスーパーマーケットという二つの装置が車の両輪のように支えてきたことは、議論の余地の無いところでしょう。自動車などは別として、スーパーの業界でグロサリーと呼ばれるパッケージ加工食品の場合、まさにそういうことが言えます。大手の食品メーカーでは、営業部がスーパーマーケットに営業し、宣伝部がテレビ局と付き合うという構図で発展してきたわけです。

 

スーパーの棚換えのある春と秋に向けて次々に新製品を発売し、それらの知名度を短期間のうちに一定水準に引き上げるという戦術が可能になりました。知名度マーケティングとでも言うべき、テレビ以前には考えられなかった手法です。テレビCM視聴何回で知名度(≒親近感)が生まれ、知名度何%を超えるとその新製品の試用率が急速に上がるというような経験則が明らかになり、新製品の設計に誤りが無ければ、かなり確実に売れる方程式が確立したと言えます。江戸時代の川柳のように独自の発達を遂げた15秒CMは、知名度が上がれば他に何も要らない、という広告思想をも発達させました。

 

ところが最近、この構図に変化の兆しが見られるのではないか、というのは私の僻目でしょうか。どうもテレビCMの効率が落ちているらしい。そりゃあそうでしょう。じっくり見たいドラマや映画は録画しておいて後でCMをカットして鑑賞する。流行のバラエティー番組は特に座って見るわけではないが、例えば部屋の賑わし環境装置、社会の窓として点けっぱなしにしておくというようなテレビの見方が一般的になると、CMのインパクトは落ちて来ざるを得ないでしょう。人々のテレビとの付き合い方は大いに変化してきたと言うほかありません。同じようにディスプレイ装置を見ていても、インターネットやゲームと付き合う時間が増えてくれば、テレビを見る時間は減らざるを得ないという事情もあるでしょうね。

 

ここで当然起きてくるだろうことはマーケティング戦術の見直しです。すでにテレビ全盛の時代に或る食品メーカーが採っていた戦略は、60%の知名度を獲得するのにテレビで30%、店頭で30%を目指していたと言われます。テレビのパワーが落ちてきたら、このメーカーさんはどうなさるのでしょうか。おそらく1%の知名度を獲得するためのコスト効率の良いほうに比重が掛かるのでしょう。そして、さらに推測に推測を重ねれば、店頭活動に掛けるメーカーの予算は必然的に上昇せざるを得ず、スーパー店頭は販促的視点ばかりでなく、広告媒体的視点からも見直されるのではないでしょうか。

 

現代消費社会の車の両輪、ショーの第二幕はこれから始まるというわけです。

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