10年後の広告はどうなっているか(5)

テレビ出現以前に、加工食品などの低関心商品の広告がどうであったか、振り返ってみませんか。主婦向けの雑誌などにちょいちょい広告が出ることがあったり、食料品店の店頭に味の素のホーロー看板がぶら下がっていたりしても、一つの商品の知名度が短期的に上がるようなことはありませんでした。

 

日清サラダ油の商品名は、大正時代に「サラダに使えるほど精製度の高い高品質の食用油」をシンボライズする名前として現在の日清オイリオによって採用され、およそ100年間倦まずたゆまず使われることで、市場シェアナンバーワンの地位を獲得する一助となったのです。テレビスポットを2万GRP投入することで、1年間でそうなったのではありません。

 

歴史的に見て加工食品のライフサイクルは長いものが多く、お酒や味噌、醤油の醸造元が「嘉永元年創業」などと謳っているのはその証拠です。お菓子の銘柄でも、江戸時代の殿様が愛用された、といった曰くつきのものが珍しくありません。

 

このような景色を一変させたのが、テレビとスーパーマーケットという大量販売メカニズムです。今、急にスーパーマーケットが衰退することは考え難いが、同じ形で存続する保証はありません。テレビがすでに衰退の時代に突入していることは誰の眼にも明らかです。

 

何百年のライフサイクルをもつような商品を1年で普及させたり、3年で衰退させたりしたテレビって何だったのか。それは、キャプティブ・オーディエンスの状態を家庭で提供してくれる稀有の媒体であったと同時に、泣いたり、笑ったり、共感したり、高い心理的関与を演出できるとんでもない媒体だったのです。低関心商品すら、心理的関与度の高いCMに乗せて高い関心度、高い知名度をもたらしてくれる魔法の杖だったのです。

 

世の中のものごとは進化するのがふつうですから、テレビよりもっと効率の良い媒体が低関心商品の普及を助けてくれるようになると、誰もが期待するでしょうが、ほんとうにそうなるでしょうか。Before TVDuring TV、そしてこれから到来するAfter TVの時代。どう考えても、After TVの時代は、Before TVに少しばかり近づくことになりはしないでしょうか。

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