入梅イワシ

千葉県の九十九里だけで使われる表現なんでしょうか。ところは九十九里最北端の飯岡の大衆割烹。早めの夕食を摂っていたら、五十がらみの男性が数人、隣の席に陣取って酒を飲み始めました。刺身の盛り合わせを取り、

      「イワシはないのか。」

と聞いています。

「あいにくです。」

「入梅イワシだ。探してきてくれ。」

店のおばあちゃんがイワシを仕入れに出かけます。まさか船で漕ぎ出すわけではないだろうと思っていると、間もなく帰ってきました。近所の漁師を訪ねたのでしょう。

「ありましたよ。生姜にするかね、にんにくにするかね。」

 

聞いていて、わかったこと。梅雨どきのイワシは特別においしいらしい。それに、イワシの刺身は生姜醤油のほか、にんにく醤油で食べる手があること。ふーむ、入梅イワシか。初耳だねぇ。

 

あくる日、スーパーに行ったらイワシがいました。捕れたてのようにツヤツヤして、目玉も黒い。丸々した中型のマイワシが6匹で200円。漁師の家で買ってきたわけじゃないからねー。2パック買ってきて、頭とワタを取って煮てしまいました。食べてビックリ。やっぱり刺身にするべきでした。しかし、煮てもうまいなぁ。脂っ気のないパサパサでもない、脂が乗っているが、乗りすぎたギトギトでもない、ほど好い具合なんですね。新鮮な入梅イワシは鯛やマグロを負かすぐらいの旨さがあることを知りました。

 

こんな美味しいものなら、観光ポスターなどで一年でいちばん美味しい「入梅イワシ」などとやればよさそうなものですが、それでは他の季節にイワシが売れなくなってしまうのでしょうね。だから、この拙文を読む人だけに、ナイショで教えます。

Comments are closed.