テレビ視聴率の謎解きに挑戦する

暮れも押し迫った27日、hqazさんの投稿「そもそも今のTV広告って...」で、「テレビ広告の効果が下がった」という主旨のコメントがありました。かりそめにも広告勉強会の座長役として、ただ黙ってほうっておくわけに行きません。そこで今日はその謎解きに挑戦してみようと思います。たしかに、最近テレビをあまり見なくなったという知人や、テレビ広告が効かなくなったという企業関係の方のコメントをお聞きすることがあります。それでも、例えば12月17日放送の「爆笑レッドカーペット」の世帯視聴率が20.7%だったとかいう数字が出ていて、5世帯に1世帯はこういう番組を見ているのかな、と思わされるから訳が分からなくなってしまうんですね。

さて、ある広告業界の方と話をしていたら、テレビ視聴率調査の母集団には番組を録画して見る世帯は含まれていない、という話になりました。つまりこういうことです。サンプル調査の結果、関東テレビエリアで番組を即時視聴する世帯の20.7%が、12月17日に「爆笑レッドカーペット」にチャンネルを合わせていたということです。そしてその数字が、関東テレビ世帯約1,400万世帯の20.7%がこの番組を視聴していたと同義に拡大解釈されて、世帯視聴率という数字になったのです。

録画視聴世帯を調査サンプルに含めようとすると、やっかいな問題が起こります。放映されたときに録画したのはあくまで録画であって、視聴ではない。しからばDVDレコーダーから視聴したときをもって「視聴率」にカウントして即時視聴と合算するか。そんなことは技術的にむずかしい。だから、即時視聴世帯の視聴率だけをビデオメーターで機械的に測定し、その数字を(録画視聴世帯を含む)全世帯に拡大適用して「世帯視聴率」を推定しているものと、推定されます。

統計的に、録画視聴世帯が即時視聴世帯とおなじ視聴行動をとってくれればそれで良いわけですが、きっとそうではないのでしょうね。そもそも一週間のうちで、録画視聴者がテレビ番組を録画または視聴している時間の累積長さは、即時視聴者の視聴時間の累計とちがうかもしれない。視聴する番組のタイプが違う可能性も大である。どう考えても、DVDレコーダーを愛用する人は、ドラマやドキュメンタリー、スポーツ中継などの愛好者が多いのではないでしょうか。

そうだとすると、視聴率調査で上位に挙がる番組は、録画視聴を除外しているから、バラエティーやお笑い番組が比較的に多くなる。そうなると、公表された世帯視聴率1%あたりでスポットの値段が決まっている現状では、テレビ局は公式の視聴率数字に反映する番組、つまりバラエティーやお笑いを多く編成したくなる。ますます視聴者トータルとしてのテレビ放送ばなれが起き、テレビ受像機はゲームやレンタルDVD再生のために使われる時間が多くなる。それでも、世帯視聴率はバラエティーやお笑い番組を、多くの世帯が見ているというデータを出し続けることになります。

 

さらに悪いことには、これは仮説に過ぎませんが、マガジン、バラエティー、お笑い番組といったジャンルはカジュアル視聴、つまり何となくテレビを点けておく視聴スタイルが多く、録画視聴されるような番組にはインテンシブ視聴が多いことが予想されます。テレビ広告の強さは、昔から視聴者がキャプティブ・オーディエンスであることに大きく依存してきましたが、その視聴パターンが崩れていることも、テレビ広告の効果をそいでいる原因ではないかと推察されます。

 

さあ、どうでしょう。この謎解き推理は当たっているでしょうか。このほかに録画視聴者の視聴行動にはCMをスキップして見るという別の問題があります。視聴率調査が内包するもう一つの前提条件は番組視聴率=CM視聴率ということですから、これがそうでないということになると、CM枠の売買はますます、実情と乖離した情報をもとに行われるようになる。広告主は、以前とおなじGRPのスポット広告を打っても手ごたえが違う、ということになろうというわけです。テレビ業界の悪循環、根が深そうですね。

One Response to “テレビ視聴率の謎解きに挑戦する”

  1. hqaz より:

    なるほど。
    なぜ昨今のTV局が「全番組バラエティ化」に進んでいるのか。仮説はごもっともだと思います。